Advent Calendar 2020: ソフトウェア無線
Day 2: ディジタル変調
ディジタル通信では情報を電波などの波により送受信します。この情報の送受信に使う波を搬送波と呼びます。送受信する情報の帯域信号をベースバンド信号と呼び,このベースバンド信号を搬送波に変換することを変調,搬送波からベースバンド信号を取り出すことを復調と呼びます。
ディジタル通信では,ベースバンド信号はディジタルデータであり,このディジタルデータを搬送波に変調する方式はいくつかありますが,ここでは「振幅偏移変調 (ASK: Amplitude-Shift Keying)」と「位相偏移変調 (PSK: Phase-Shift Keying)」,およびこれらを組み合わせた「直角位相振幅変調 (QAM: Quadrature Amplitude Modulation)」について説明します。
これらの変調方式は,搬送波周波数を \( f_c \) とすると
$$ s(t) = a(t) \cos\left( 2 \pi f_c t + \theta(t) \right) $$
と表すことができます。このとき,\( a(t) \) は振幅,\( \theta(t) \) は位相を表すので,ベースバンド信号を振幅または位相で表すことで,変調後の信号 \( s(t) \) を得ることができます。QAMは,ベースバンド信号を \( a(t) \) および \( \theta(t) \) で表します。
ベースバンド信号を振幅と位相で変調するため,複素平面と同様に下図のように,中心からの距離に振幅,横軸からの回転角に位相を取ることでベースバンド信号を複素数で表すことができます。下図は信号空間ダイアグラム(constellation diagram)と呼ばれます。また,横軸を同相を表す In-phase,縦軸を直角位相を表す Quadrature と呼ぶことから,これらの頭文字を取って I-Q ダイアグラムとも呼びます。
この変調・復調を行う単位をシンボルと呼びます。1つのシンボルは通常複数の周期から成ります。
振幅偏移変調
振幅偏移変調は,振幅によりベースバンド信号であるディジタルデータを表す方式です。単純な振幅偏移変調は最大振幅で 1,最小振幅で 0 の2値を表す方式ですが,最大振幅と最小振幅の領域を分割することで複数の値を取ることもできます。最も単純な振幅偏移変調は,スイッチなどの装置で最小振幅を0とする変調で,これはオンオフ変調とも呼ばれます。オンオフ変調のときの I-Q ダイアグラムは下図のようになります。
位相偏移変調
位相偏移変調は,位相によりベースバンド信号であるディジタルデータを表す方式です。位相偏移変調には,基準信号に対する位相差で情報を表す方法と,位相の変化により情報を表す方法があります。後者は基準信号を必要としないため,基準信号の位相を共有する必要がなく,また通信路上で位相が回転するような状況にも強い変調方式です。この方式を特に差動位相偏移変調 (DPSK: Differential Phase-Shift Keying) と呼びます。今回は一般に使われている前者の基準信号に対する位相差で表す方式について説明します。
最も単純な位相偏移変調は \(0^\circ \), \( 180^\circ \) の位相差を持つ信号により,0 および 1 の2値を表す二位相偏移変調 (BPSK: Binary Phase-Shift Keying) です。この I-Q ダイアグラムは下図のようになります。
BPSKはエラー率が低い一方で,1つのシンボルあたり1ビット分の情報しか送れないため,シンボルレートに対するビットレートが高くありません。そこで,位相をさらに細かく分割し,1つのシンボルで複数ビットを変調する方式も使われています。例えば,位相を \( 90^\circ \) ずつ4つに分割し,2ビット分(4値)に変調する四位相偏移変調 (QPSK: Quadrature Phase-Shift Keying) などがあります。QPSKのI-Qダイアグラムは下図のようになります。
この他にも様々な位相偏移変調方式がありますが,ここでは割愛します。
直角位相振幅変調
多くの高速無線通信技術では,ASKとPSKを組み合わせることでシンボルあたりの情報量を増やす方式である直角位相振幅変調 (QAM: Quadrature Amplitude Modulation) が採用されています。例えば,振幅と位相を16値に分割し,1シンボルで4ビットの変調をする方式は16-QAMと呼ばれ,I-Qダイアグラムは下図のようになります。
QAMでは信号点をI-Qダイアグラム上に格子状に配置します。最近の超高速無線通信技術では,1シンボルにより多くの情報を変調するために信号点を256個(8ビット)配置する256-QAMや1024個(10ビット)配置する1024-QAMといったものも使われ始めています。
今日のまとめと明日の予定
ディジタル変調についてまとめたので,明日はSDRでこれらの変調方式を試してみようと思います。