インターネットと法律
注:著者は情報学の専門家ですが法律の専門家ではありません。まずはこちらをご覧ください。
ネットオークションや中古品販売と古物商
オークションや中古品の売買を仲介するフリーマーケット(フリマ)プラットフォームが数多く登場していますが,古物の販売は 古物営業法(以下,法といいます。) で規制されています。また,インターネット上の取引は特定商取引に関する法律(特定商取引法)の通信販売に該当しますが,今回は古物営業法にのみ注目します。
古物営業法の目的と古物
古物営業法の目的は法第1条に
この法律は、盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るため、古物営業に係る業務について必要な規制等を行い、もつて窃盗その他の犯罪の防止を図り、及びその被害の迅速な回復に資することを目的とする。
と規定されているように盗品等の売買の防止を目的としています。
そのため,正規の流通ルートで販売される新品の商品については古物営業法の規制対象ではありません。一方,古物の定義は法第2条第1項に
この法律において「古物」とは、一度使用された物品(鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手その他政令で定めるこれらに類する証票その他の物を含み、大型機械類(船舶、航空機、工作機械その他これらに類する物をいう。)で政令で定めるものを除く。以下同じ。)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたものをいう。
と規定されているように,中古品だけでなく,新品未使用の品でも「使用のために取引されたもの」は「古物」と定義されています。つまり,最近話題に上がることの多い転売も,「使用のために取引されたもの」であれば「古物」の取引となるため,もしWebサービスなどで「使用のために取引された」新品未使用品を含め,古物を扱う場合は古物営業法を遵守する必要があります。
古物営業法の解釈は,警視庁 古物営業関連法令の解釈基準等(以下,警視庁解釈基準という。)が参考になります。こちらの解釈基準は平成7年改正時(平成7年4月19日法律第66号)のもので,それ以降(国立国会図書館のデータベースで「古物営業法の一部を改正する法律」に該当するものを検索した限りでは)平成14年11月27日法律第115号,平成30年4月25日法律第21号で2度改正されていますが,第1条,第2条第1項,第2項第1号および第2号は変更されていないため,少なくともこれらの解釈については現在でも参考にできると思います。
法第2条第1項の解釈として,
法第2条第1項中「使用のために取引されたもの」とは、自己が使用し、又は他人に使用させる目的で購入等されたものをいう。したがって、小売店等から一度でも一般消費者の手に渡った物品は、それが未だ使用されていない物品であっても「古物」に該当する。例えば、消費者が贈答目的で購入した商品券や食器セットは、「使用のために取引されたもの」に該当する。
(警視庁解釈基準)
とあり,小売店等から購入した物品は「古物」に該当すると解されます。
尤も,転売に関しては転売禁止である商品については,転売の意思があるにもかかわらずその意思を隠して(転売でないように装い)購入した場合,詐欺罪(刑法第246条)に該当する可能性があります(神戸地裁平成29年9月22日)。また,販売するものによっては,古物営業法以外に 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法) や 特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(チケット不正転売禁止法) などの特別法により規制されていることがあるので注意する必要があります。
古物営業
「古物」の定義は「使用のために取引された」新品も含まれるため,ネットオークションや不要品売買サイトで取引されている非常に多くのものが古物に該当すると推察されます。では,これらの売買がすべて古物営業法で規制される古物営業になるのかを調べていきたいと思います。
古物営業の定義と解釈
古物営業法はその名前のとおり古物営業に関する法律なのですが,古物営業については法第2条第2項で以下のように定義されています。
2 この法律において「古物営業」とは、次に掲げる営業をいう。
一 古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業であつて、古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの
二 古物市場(古物商間の古物の売買又は交換のための市場をいう。以下同じ。)を経営する営業
三 古物の売買をしようとする者のあつせんを競りの方法(政令で定める電子情報処理組織を使用する競りの方法その他の政令で定めるものに限る。)により行う営業(前号に掲げるものを除く。以下「古物競りあつせん業」という。)
このうち,第1号と第2号の営業を営む者は,法第3条で,
前条第二項第一号又は第二号に掲げる営業を営もうとする者は、都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の許可を受けなければならない。
と,公安委員会の「許可」が必要と定められています。公安委員会は警察組織の一部であり(警察の組織と公安委員会制度 図1-2 都道府県の警察組織参照),実務的には通常は警察書が窓口となっているようです(警視庁の場合は主たる営業所の所在地を管轄する警察署(防犯係)と案内されています)。
一方,法第2条第2項第3号の古物競りあっせん業については,法第10条の2で,
古物競りあつせん業者は、営業開始の日から二週間以内に、営業の本拠となる事務所(当該事務所のない者にあつては、住所又は居所をいう。以下同じ。)の所在地を管轄する公安委員会に、次に掲げる事項を記載した届出書を提出しなければならない。この場合において、届出書には、国家公安委員会規則で定める書類を添付しなければならない。
と規定されており,公安委員会への「届出」が必要とされています。
これらの「許可」や「届出」を行わずに古物営業を営んだ場合には罰則があるので注意したいところですが,この「古物営業」の解釈に困ることもあります。一般的に「業として行っている場合」や「営利目的の場合」に古物営業に該当すると言われていますが、 この解釈についても,いくつかは以下のように警視庁解釈基準で解説されていますので、以下で紹介します。なお,平成7年法改正時の警視庁の解釈基準なので,現在もこの解釈で運用されているとは限りませんので,グレーゾーンだと感じたら弁護士等の専門家に確認するようにしてください。
警視庁解釈基準では,法第2条第2項第1号の「自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けること」についての解釈として,条文には第三者が介在した場合については明記されていませんが,警視庁解釈基準によると,
あくまでも自己が売却した物品を当該売却の相手方から第3者を介在させず直接買い受けることに限られる。
(警視庁解釈基準)
とあり,販売したものを第三者を介在させずに直接買い戻すような場合に限定して法第2条第2項1号の古物営業に該当しないと解されています。つまり,
例えば、AがBに売却した物品をAがBからCを介在させて買い受ける行為はこれに該当しない。
(警視庁解釈基準)
とあるように,第三者を介在して買い受ける行為は法第2条第2項1号の古物営業の除外規定には該当せず,古物営業に該当すると解されています。
また,「古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの」については,
「古物を売却すること」及び「自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けること」の双方の行為を行っているが、それ以外の行為を行っていない営業もこれに該当する。
(警視庁解釈基準)
とあり,法第2条第2項1号の除外規定に該当すると解されています。つまり,販売した物品を買い受け,さらにその古物を売却することのみを行うような営業形態であれば,古物営業に該当しないと考えられます。確かにこの除外規定がないと,新品として販売した物が返品された場合にそれを整備済品等として販売するような営業形態も古物営業となってしまうので,合理的な除外規定であると考えられます。
古物市場の定義と解釈
次に,古物市場について見ていきたいと思います。古物市場は法第2条第2項第2号で「古物商間の古物の売買又は交換のための市場」と定義されており,古物市場を経営する営業も「古物営業」と規定されています。警視庁解釈基準にも,
法第2条第2項の「古物市場」とは、複数の古物商が来集し、当該古物商間における古物の円滑な取引のために利用される場所であり、「古物市場主」とは、古物市場を複数の古物商にその取引の場として提供し、その取引を円滑に行わしめることにより、入場料、手数料等を徴収する形態の営業を行う者である。
(警視庁解釈基準)
とあり,入場料や手数料等を徴収して古物商間の古物の取引に利用される場所を「古物市場」とする解釈が示されています。一方で,
古物商間の取引に利用させるため場所を提供している者であっても、 無料で提供している場合はもちろん、室料等を徴収しているが、それが単なる場所の提供の代価にとどまり、古物商間の取引の遂行に一切関与しないような場合は、古物市場主には該当しない。
(警視庁解釈基準)
ともあり,場所を提供するだけで古物商間の取引の遂行に一切関与しない場合は古物市場主には該当しないとされています。つまり,デパートの催事などで古物商に対して場所を有償で提供したとしても,その取引に関与しなければ古物市場主には該当しないということだと考えられます。ただし,「一切関与しない」場合とあるため,その点には注意が必要であると考えられます。
平成7年改正当時はまだインターネットサービスも普及していなかったため警視庁解釈基準には例示されていませんが,フリマサイトなどの運営においても「古物市場」に該当する場合には古物営業法の規制対象となると考えられます。当然ですが,フリマサイト運営においては古物営業法以外にも前述の特定商取引法や電気通信事業法等にも従う必要があります。
古物競りあっせん業の定義と解釈
インターネットオークションが一般に普及したことで,平成15年改正により法第2条第2項第3号の「古物競りあつせん業」が追加されました(参考:古物営業法の一部を改正する法律の施行について(通達))。法第2条第2項第3号に「競りの方法(政令で定める電子情報処理組織を使用する競りの方法その他の政令で定めるものに限る。)」と定められているとおり,「競りの方法」については政令で定めるものに限定されています。そのため,まずは古物営業法施行令を参照しようと思います。
古物営業法施行令第3条では,以下のように「電子情報処理組織を使用する競りの方法」について定められています。
第三条 法第二条第二項第三号の政令で定める電子情報処理組織は、古物の売買をしようとする者の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ。)と、その者から送信された古物に関する事項及びその買受けの申出に係る金額を電気通信回線に接続して行う自動公衆送信により公衆の閲覧に供して競りを行う機能を有する電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織とする。
2 法第二条第二項第三号の政令で定める方法は、前項に規定する電子情報処理組織を使用する競りの方法とする。
法律独特の言い回しですが,「買受けの申出に係る金額」である入札金額を「電気通信回線」であるインターネットを通じて閲覧できるようにして競りを行うものを「電子情報処理組織を使用する競りの方法」として定めています。つまり,法第2条第2項第3号の「古物競りあつせん業」に該当する「インターネットオークション」の形態を定義しています。
それでは,インターネットオークションすべてが「古物競りあつせん業」に該当するかどうかというと,もちろんそうではありません。どのようなものが「古物競りあつせん業」に該当するか判断するには古物営業法施行令第3条の解釈が必要です。この法第2条第2項第3号及び古物営業法施行令第3条の解釈については,これまで参照してきた警視庁解釈基準は古物競りあっせん業に関する規定が導入される前の平成7年改正時のものであるため参考になりません。そこで,宮崎県警が公開している古物営業関係法令の解釈基準等について(例規通達)(以下、宮崎県警解釈基準という。)を参考に解釈を調べていきたいと思います。
法第2条第2項第3号に規定される「競りの方法により行う営業」の「競りの方法」については,
多数人に対し、お互いの提示条件を知ることができる状態で買受けに係る申出をさせ、最も有利な価格での買受けの申入れ者を決定する方法をいう。したがって、買受けに係る申出をする者がお互いの提示条件を知ることができないものや、古物を買い受けようとする者が売却しようとする者を募るものは、該当しない。
(宮崎県警解釈基準)
とあり,古物営業法施行令第3条の規定を説明すると同時に,古物営業法施行令第3条で規定されていない提示条件(入札額)がお互いにわからないような入札方式や,古物を売り渡す者ではなく買い取る側が売ってくれる人を募るような形態のものは該当しないとの解釈が示されています。
また,上記に該当するようなインターネットオークションでも「営業」に当たらず「古物競りあつせん業」に該当しないものもあります。例えば,宮崎県警解釈基準では,
法第2条第2項第3号中「営業」とは、営利の目的をもって同種の行為を反復継続して行うことをいい、出品料、落札手数料、システム利用料等その名称のいかんを問わず、利用者からインターネット・オークションに係る対価を徴収している場合が「営業」に当たる。したがって、サイトのバナー広告により収入を得ており、利用者からインターネット・オークションに係る対価を徴収していない場合には、ここでいう「営業」には当たらない。
(宮崎県警解釈基準)
と示されており,広告等による収入を得ている場合も利用者からインターネットオークションに係る対価を徴収していない場合は「営業」に該当しないという解釈が示されています(この解釈が現在も全国的に有効であることは確認していないので専門家に相談することを推奨します)。個人的には,古物営業法が盗品等の流通を防ぐことが目的であることから,このように広告収入により運営されているようなインターネットオークションも届出を行うことが好ましいとは思います。
古物営業に関する解釈の具体例
具体的な例として,警視庁解釈基準にてリサイクルショップの例が示されているので,以下で確認します。ただし,警視庁解釈基準にも
いわゆるリサイクルショップやバザー、フリーマーケットにおいて行われている取引が古物営業に該当するかどうかについては、その取引の実態や営利性等に照らし、 個別具体的に判断する必要がある。
(警視庁解釈基準)
とあるように,個別具体的に判断する必要があることが前提とされているので,以下の例で示されている営業形態に類似していてもその判断が異なる可能性があるので注意が必要です。
買い取りを行わないリサイクルショップの例
廃品回収のように無償又は料金を徴収して古物を引き取り,必要に応じて修理等を施し,販売するようなリサイクルショップがあります。このような営業形態については,
無償又は引取料を徴収して引き取った古物を修理、再生等して販売する形態のリサイクルショップは、法第2条第2項第1号の「古物を売却すること」のみを行う営業として法の規制の対象から除外されるが、古物の買取りを行っている場合には、古物営業に該当する。
(警視庁解釈基準)
と,「古物を売却すること」のみを行う営業であり法の規制対象外であることが警視庁解釈基準で例示されています。古物営業法が盗品等の売買の防止を目的としていることから,無償又は料金を徴収するような場合は盗品等の換金目的の処分に用いられるおそれがないためと考えられます。一方で,上記の例にも示されているとおり,買い取りを行っている場合は(当然)「古物営業」に該当します。
バザーやフリーマーケットにおける例
慈善事業のため物品を売却して資金を得るためのバザーや不用品等の古物を売買するフリーマーケットは,どのようなものが古物営業に該当するのか,判断が非常に難しいところです。警視庁解釈基準では,
いわゆるバザーやフリーマーケットについては、その取引されている古物の価額や、開催の頻度、古物の買受けの代価の多寡やその収益の使用目的等を総合的に判断し、営利目的で反復継続して古物の取引を行っていると認められる場合には、古物営業に該当する。
(警視庁解釈基準)
と古物営業に該当する例として,「営利目的で反復継続して古物の取引を行っていると認められる場合には,古物営業に該当する。」と示されています。該当しない例が示されていないため明確には言えませんが,1度きりの売買や個人の不用品を適切な中古品価格でフリーマーケットにて販売する程度であれば,営利目的ではないと認められるかと思います(注:個人の見解です)。
まとめ
インターネットオークションやフリマサイトなど,個人が簡単に古物を売買できるようになっています。また,環境問題などが叫ばれる仲で,インターネットを活用したリユース・リサイクルを目指す新しいビジネスが今後も登場するものと思われます。このようなビジネスを行う上で古物営業法は避けては通れないため,今回は古物営業法を取り上げ,警視庁と宮崎県警の解釈を参照しながらその解釈についてまとめました。「古物」の売買を「業として行っている場合」や「営利目的の場合」に古物営業にあたるため,これらを取り扱うビジネスを立ち上げる際には古物営業法を確認すべきです。
なお,インターネットオークションの登場後に古物競りあっせん業に関する規定が追加されたように,新しいビジネスが古物営業法の目的である「盗品等の売買の防止」にそぐわないようなサービスについては法改正により新たに規制されうることもあるため,法令遵守を心がけるとともに,保護法益を考えながらビジネスを構築することが重要であると考えます。