インターネットと法律
注:著者は情報学の専門家ですが法律の専門家ではありません。まずはこちらをご覧ください。
導入:六法・一般法と特別法・強行規定と任意規定
六法
「六法全書」という言葉はどこかで聞いたことがあるかと思います。「六法」というのは,
- 6つの法律
- 6つの法分野
- 法令集
の意味で使われています。
まず,「6つの法律」としての六法は,(日本における)主要な6つの法律である
- 憲法
- 民法
- 商法
- 刑法
- 民事訴訟法
- 刑事訴訟法
を指します。これらの6つの法律は基本六法とも呼ばれます。
また,基本六法に対応した「6つの法分野」を六法と呼ぶことがあります。例えば,法分野としての商法には会社法などの法律を含みます。なお,現在の司法試験では,6つの法分野としての六法(6分野)に「行政法」を加えた七法が必須科目となっています。
六法全書には基本六法や「6つの法分野」以外の法令も掲載されており,様々な法律という意味があり,これが転じて「六法」という言葉を「法令集」という意味で用いることがあります。労働六法2021 など,書籍で多く使われる表現です。
一般法と特別法
「特別法は一般法に優先する」という特別法優先の原則があります。異なる法令で矛盾する規定が存在する場合に,特別法の規定が一般法の規定に優先することで,矛盾を解消するという原則です。一般法と特別法の関係は相対的なものなので,一般法にも特別法にもなる法令もあります。また,法令内のある規定が別の法令の一般法・特別法となることもあります。
一般法と特別法の例として,民法の特別法である建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)を挙げます。民法第97条第1項には,
意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
と定められており,意思表示が相手に到達したときに効力が生ずる到達主義をとっていますが,建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第35条第3項及び第4項では,
3 第一項の通知は、区分所有者が管理者に対して通知を受けるべき場所を通知したときはその場所に、これを通知しなかつたときは区分所有者の所有する専有部分が所在する場所にあててすれば足りる。この場合には、同項の通知は、通常それが到達すべき時に到達したものとみなす。
4 建物内に住所を有する区分所有者又は前項の通知を受けるべき場所を通知しない区分所有者に対する第一項の通知は、規約に特別の定めがあるときは、建物内の見やすい場所に掲示してすることができる。この場合には、同項の通知は、その掲示をした時に到達したものとみなす。
と通知を発した時点で到達したものとみなす発信主義をとっています。これらの法律の条項は矛盾しますが,区分所有法は民法の特別法であるため,特別法優先の原則により,区分所有法の規定が優先します。
このように,特別法で一般法に優先する規定が定められていることがあり,特に事業に関しては事業形態(例えば労働者派遣法や下請代金支払遅延等防止法(下請法))や事業ごと(例えば警備業法)に特別法が定められていることが多いため,注意が必要です。
一般法と特別法の見分け方は,弁護士法第72条のように「ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」というような記載があれば,この条項は何らかの法令に対して一般法であり,会社法第147条第3項の「民法第三百六十四条の規定は、株式については、適用しない。」のように明示されていれば特別法であると判断できます。また,天皇の退位等に関する皇室典範特例法のように「規定の特例として」と明記されているものも特別法であると判断できます。一方で,先ほど例として挙げた区分所有法のように,民法の特別法であることが明記されていないものもあります。
強行規定と任意規定
法律の規定には「強行規定」と「任意規定」があります。
民法第91条には,
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
と契約自由の原則が定められています。この「法令中の公の秩序に関しない規定」を「任意規定」といいます。つまり,任意規定については,当事者の意思表示(契約や合意等)によって法令に優先する変更が許されます。
一方,強行規定は契約や合意などの当事者の意思表示があったとしても法令が優先する規定です。
民法第404条第1項は,
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
と意思表示がない場合の利息の利率を法定利息(令和2年4月の民法改正以前は法定利率は5%の固定金利でしたが,改正後は3%(民法第404条第2項)となり,また,3年ごとに変動するもの(民法第404条第3項乃至第5項)と改正されました。)と定めていますが,当事者の意思表示でこれを変更することを許しています。そのため,民法第404条第1項は任意規定となります。一方,利息制限法第1条では,
金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
と定めており,利息の利率について制限を設け,それを超えた部分は無効と規定しています。こちらは強行規定であるため,契約等の合意によりこれを超える金利に変更することは許されず,この制限を超過した部分については無効となります。
上述の民法404条第1項のように「別段の意思表示がないときは」といった任意規定であることが明記されているものはごく一部であり,多くの場合は強行規定であるか,任意規定であるかは条文には明記されておらず,法令の趣旨から判断する必要があります。一般的に弱者を保護する目的の法令(例えば,上述の利息制限法など)は強行規定であり,契約に関する法令の規定は任意規定であることが多いです。
ここで,私のような初学者には任意規定か強行規定かの判別が困難であるものの例を挙げます。区分所有法第34条第3項は,
区分所有者の五分の一以上で議決権の五分の一以上を有するものは、管理者に対し、会議の目的たる事項を示して、集会の招集を請求することができる。ただし、この定数は、規約で減ずることができる。
と「請求することができる。」という区分所有者による集会招集請求権を定めた規定であり,「ただし、この期間は、規約で伸縮することができる。」という条文もあるため,一見,任意規定であるようにも読めます。しかし,判例(東京地裁平成23年9月28日)によると,区分所有法第34条第3項の規定はその性質上強行規定と解すべきであり,明文で認められている「定数」を除き,緩和することは許されないという趣旨の判決が下されています。この判例通りに解釈すると,管理組合法人を置かないマンションの場合,区分所有法第34条の規定に拠らない区分所有者による集会招集権を定めることはできない可能性があるため,マンション標準管理規約第41条第3項で監事(管理組合法人を置かないマンションの場合,区分所有法上は一区分所有者)に臨時総会の招集を認める規約が有効であるのかが気になります。(2021年9月12日追記:区分所有法の所管省庁である法務省に確認したところ,法務省の見解としては規約で監事による招集を定めることは問題ないとの回答がありましたが,根拠については判例を確認していないので回答を差し控えるとのことです。過去の裁判において,所管省庁の見解と異なる判決が出たこともあるため100%問題ないとは言えませんが,法律の趣旨を考えてもそのように解することが妥当であるとは思います。東京地裁平成23年9月28日判決では明言されていない区分所有法第34条第3項の規定に拠らない区分所有者の集会招集が可能かは依然気になるところです。)